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ジョセフ・E・スティグリッツ

内容をメモ

■序
ニューエコノミーは規制緩和や金融工学など20世紀後半を特徴づける驚異的なイノベーションの総称であり、よりすぐれたリスク管理を可能にし、景気循環を消滅させるはずだった
しかし、大不況が幻想を打ち砕いた
明らかに80年前の大恐慌以来、最悪の景気下降である

四半世紀ものあいだ幅をきかせてきたのは自由市場主義だった
いわく、足かせのない自由な市場は効率的で、もし過失を犯しても自力で即座に修正する
最良の政府は小さな政府であり、規制はイノベーションを阻害するものでしかない
中央銀行は独立した機関として、インフレ率を低く保つことのみ専念すべきである


資本主義と共産主義の相克(そうこく)は終わったかもしれないが、市場経済には多くの考え方があり、激しい論争がある
成功した全ての経済において、市場がその中核を担っていることはたしかだが、それらの市場が独力で機能しているとは思えない
その意味では私は、現代経済学に絶大な影響を与えたイギリスの巨人ジョン・メイナード・ケインズの流れを汲んでいる
政府には果たすべき役割があり、それは市場が崩れたときに経済を救うだけでなく、市場に規制を課して、わたしたちが今回経験したような失敗を防ぐことまでを含む

経済には、市場の役割と政府の役割のバランスをとることが必要で、市場と政府のいずれでもない第三機関の大きな意味をを持つ
過去25年間アメリカはそのバランスを失っており、アンバランスな大局観を世界中の国々に押し付けてきた

危機がどこまで長引くかは政策次第だ
すでになされた失策は、景気の低迷をさら
に長期化させ、深刻化させるだろう

私たちは危機以前の世界には戻らないし、戻れもしないだろう


2008年の危機で市場原理主義の命脈は尽きたと思った人もいるだろう
誰も二度と市場が自律的であるなどと唱えることはないし、市場参加者の利己的な行動に任せれば全てがうまく運ぶと主張したりはしないと思った人もいるだろう

市場原理主義の恩恵を受けた人達はそれとは異なる解釈をする
あるものはわが国の経済は事故にあったのであり、事故は起こるものだという
そういう立場をとる人達は出来るだけ早く世界を2008年の状態に戻したがっている
銀行に好きなだけ金を与え、ほんの少し規制を強め、業務規律を徹底させ、ビジネススクールで職業倫理の授業を増やすようにすれば、アメリカ経済はすぐに本来の健全さを取り戻す、と

しかし、問題の根はもっと深いというのが本書の論旨だ
この25年の間、自律的な機構であるはずのアメリカ金融システムは再三にわたって政府の救済を受けてきた
そうやってシステムが延命したことで、国民はそれが自力で修復したかのような錯覚を植え付けられた
実際には危機以前の大半の国民にとってアメリカ経済はあまりうまく機能していなかった


アルゼンチンは、1995年にメキシコのペソ危機のあおりで始まった危機が、97年の東アジア危機、98年のブラジル危機によって激化し本格的な崩壊が起こったのは2001年後半に入ってからだった