20110905日経ビジネス


移民船第一号「笠戸丸」の出航から100年余り
日系人たちは苦難を乗り越え、ブラジルの農業•工業技術の発展に貢献をしてきました
戦前の移民には奴隷同然の扱いを受けた人が多く、お金を稼ぐどころか、借金が膨らむ人が続出しました
日本人は責任感が強く、その分、自殺者も多かったと聞きます
口べただけど、人を裏切らない
約束は守る
その後、日本人の信頼という財産は、同国に進出する日本企業にとって、後押しとなってきました
震災や円高進行を受けて、空洞化論議が熱を帯びています
こんなときに企業経営者が積極的な海外シフトの方針を打ち出せば、国を捨てるかのようにいわれる風潮があります
しかし、本当にそうでしょうか
震災後、多くの国から支援の申し出がありました
彼らが日頃、見ている日本人は、国内に住んでいる人ではなく、現地にいる人たちです
つまり海外に飛び出していった人たちが日本ブランドを向上させ、巡り巡って、日本の復興支援に一役買ったと見ることもできます
日本の経営者はもっと海外展開で成長することが国のためになると堂々と言ってよいと思います
戦前のブラジル移民は、言わば海外への出稼ぎの先駆者

■新浪剛史 ローソン社長
正直にいって個別政策において野田氏の考えと僕の考えで異なる部分もある
しかし、経済成長ファーストという大方針が一致しているのであれば、個別政策に対する小さな違いで政権を否定するようなことはやめたい
何か政策を進める際には、企業や国民の一部が痛みを感じることもでてくるだろう
うちとしてもあるかもしれない
しかしその痛みがやがてもたらされる経済成長のためであると納得し、実感できれば、その痛みには耐えようと思う
例えば消費税は上げればいい
5%でも10%でもいい
あるいは個人的には、国内に買い手がいる限りは国債をもっと発行したっていいと思う
ただ、その前提として経済成長か、またはその確信が欲しい、ということだ

TPP導入に対する考え方が、輸出産業関係者と農業関係者とで異なるのは当たり前だ
最初に述べた様に、政策を実行して何かを変えるときには、誰かが痛みを感じるものだ
だが、その痛みに耐えてもらってでも国家の大計として進めなければならないならば、リーダーにはそういうメッセージを発してほしい

■永守重信 日本電産社長
民主党政権は自民党政権よりも経済政策への経験が乏しく、知識がないのに、政治主導なる叫びの下で素人的な経済運営をしてきたといわざるをえない
現在の超円高や世界的に高すぎる法人税、厳しい労働規制などの放置が企業の競争力を大幅に低下させた
復興税と称して所得税や法人税を引き上げる増税策は、経営者の意欲を低下させるだけではなく、企業の国際競争力を低下させかねない
野田政権では経済状況が好転することはないとみている
今やるべきなのは、行政の無駄の削減に真剣に取り組むこと、直接税と間接税のバランスを取るためにも景気回復時には消費税をあげることを明言し、それを担保にした一時的な赤字国債発行で経済活性化を図ることだ
その意味で企業の国際競争力を回復させるための法人税率の引き下げは当然必要だろう
労働規制の緩和やTPPなどによる自由貿易も待ったなしである

■原田永幸 日本マクドナルドCEO
「成長なくして財政再建はない。財政再建なくして成長はない。」
五人の候補者の中で野田氏だけがこの点を明確に主張していた
将来の成長のための真の政策を語ろうとしていたと思う
日本の今後を語ろうとしていたと思う
日本の今後を真剣に考えている情熱を感じさせる人だ


2010年度の納税額の上位20社で、2010年度の海外売上高比率が7割以上の企業が、トヨタ自動車など6社ある
3〜5割の企業は7社
合計するとNTTなど海外売上高比率が10%未満で開示していない内需企業の数より多い
もちろん全額を日本で払っているわけではないので、海外に出なければ日本の税収はさらに増えるとの指摘もあるだろう
さらに、海外での納税額が日本を上回ったとしても、利益が国内に還流すれば、それは日本経済の活性化につながる
実際にそれが起きている
6兆3000億円、3兆1000億円
前者が2009年度の国の法人税収だ
リーマンショックのあおりで前の年度から4兆円近くも減った
2010年度は9兆円近くまで回復したが、それでも20兆円近くあったバブル経済崩壊前と比べるとほぼ半分の水準だ
一方の後者は、配当金の形で海外から国内に還流した利益
多くが日本企業の海外現地法人が現地で稼ぎ、日本本社に送金した額だ
2000年代前半は1兆円前後で推移していたが、ここ数年は法人税収の落ち込みと反比例する形で、右肩上がりで増えている
かつては海外で得た利益を国内に還流させる場合、日本の法人税率が課された
このためりえ現地での再投資にまわす比率が高かったが、2009年度税制改正で日本本社が現地法人などから配当金の形で受け取る収益の95%が非課税扱いとなった
これによって現地で再投資にまわるカネは大幅に減り、還流額が急増した

海外展開を加速するほど現地でそれを担う日本人社員が必要となるのは、どの産業にも当てはまる
開いた拠点の数だけ雇用も増える
もっとも、海外への本格進出を確実に雇用確保、雇用増に繋げるにはどうしても避けて通れない道がある
それは、日本人社員をグローバルで通用する人材に育て上げることだ

柳井社長は、日本を食べさせていくのは、グローバル化した企業とグローバル化した日本人と力説する
企業と人が両輪となって動き出せば、日本は空洞化の弊害を乗り越えられる


企業と人材の海外進出に加えて、個人金融資産が出稼ぎに動き始めた時、日本経済は新たな時代を迎える
海外での投資収益を最大化し、それが国内に還流することで日本全体が潤う、出稼ぎ立国の到来だ
そして、その際の指標となるのが、GNP(国民総生産)だ
GNPを見ても日本が世界第三位であることは変わらない
ただ、GDPでみた日本経済が人口減などの要因から成長余地が限られるのに対して、GNPには成長の可能性がある
そこに指標として再評価する理由がある
GDPにはモノやサービスの輸出から輸入を差し引いた純輸出は含まれるが、国内に還流した企業の海外利益は含まれない
同様に、金融機関や家計が海外に投資した証券投資収益も含まれていない
つまり、所得収支が含まれない
それは、これまで空洞化の恩恵として触れてきた要素が、カウントされないということを意味する
ところが、日本の場合は2005年以降、所得収支が貿易収支を一貫して上回っている
これは、GDPに含まれる純輸出より、GDPに含まれない海外からの純所得がより重要になったことを示唆している
日本はすでに貿易立国だった時代を終え、海外に投資して海外で稼ぐ出稼ぎ立国の時代を迎えていたわけだ
かつて最も重要だったGNPが、GDPにその座を譲り渡したのは1993年のこと
当時は海外での企業活動と国内景気の連動性が低く、GDPに海外からの純所得を上乗せしたGNPでは国内の景気動向を読み誤る恐れがあったためだ
しかし、経済のグローバル化が急速に進んだ今日、国内の経済活動だけを見ていては逆に経済の実力を過小評価することにもなりかねない
日本をGNPでみれば、空洞化こそが経済の牽引役となり得るということだ
企業も人もマネーも海外へその流れを止めることができないすれば、海外で儲けない手はない
GNPを増やす
日本の生きる道はそこにある

■花崎淑夫 ルミネ会長
桐生(群馬)の絹織物、尾州(愛知)の毛織物、北陸の合繊
日本では、こうした伝統的な繊維の産地が絶滅の危機に瀕しています
各社が安さを求めて中国に生産拠点を移した結果、現在では日本のアパレル商品の9割以上が中国で生産されています
アパレル各社は、日本国内の製造工場に仕事を依頼するときにも、中国と同じ条件を求める
これでは産地が疲弊するのも当然です
その点、欧米系の高級ブランドは日本のアパレル各社以上に、日本の産地を勉強しています
必要な素材はその良さを理解した上で、相応の価格で注文しているのですから

当然、小売業もお手伝いをすべきです
なぜこの価格なのか、どうやって作られたのかを説明して、お客様に満足して買ってもらう
今の消費者は、価値のある商品にはお金を払います
川中、川下が一体となって日本の繊維産地を支える
ファッション業界は今、転換期を迎えています