20110618週刊ダイヤモンド

■ドラッカー
•柳井正 ファーストリテイリング社長
「企業には2つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである」(現代の経営)
ドラッカーが言うマーケティングとは、お客様がもう自然に買ってくれるというものであり、イノベーションは、われわれが考える付加価値でなく、お客様にとっての付加価値を生むということ
イノベーションといえばハイテク企業の専売特許のよに考えられていますが、小売業やサービス業にこそイノベーションが必要で、それを可能にするのは知識労働者である、知識を持った労働者が未来をつくる、とドラッカーは言っています
イノベーションについて言えば、ちょっと皆さんに誤解があると思う
われわれは市場を奪った、安いから売れるみたいに今でも思われているんですけれども、新しい市場をつくった
われわれは二つ定義しているんです
ファーストリテイリングとは何か、ユニクロとはなにか
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」「ユニクロは、あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です」

「変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくりだすことである」(ネクストソサエティ)
「未来はたぶんこういうふうになるだろう」「こういう未来になってほしい」と自分で考え、「自分で未来をつくりださないといけない」とドラッカーは言います実際に変革を起こした人物はそうだったと思う
今の若い人たちにも、「自ら変化をつくりだす」という志や気概をぜひ持って欲しいと思います

•菊澤研宗 慶応大学教授
ドラッカーはウィーンに生まれた
幼い頃から父の親友であったフロイトなど知識人に囲まれて育ちました
そのため、自然にヨーロッパ知識人の伝統を受け継ぎました
その伝統とは、人間の自由の尊重です
ドラッカーの経営哲学を語る場合、この自由の概念は欠かせません
しかし彼の故郷ウィーンがヒトラー率いるナチスに占領されると、自由を強制的に放棄させられ、全体主義を押しつけられました


2作目の「産業人の未来では「ファシズム全体主義が二度と出現しないように、新しい自由社会を形成しないといけない。その担い手となるのは、政府、政治家、官僚ではなく、企業経営者である」と強調しました

3作目の「企業とは何か」で、「企業に対して政治的アプローチをしたい」と言っています
そもそもドラッカーがマネジメントに着眼したのは、お金儲けじゃなく、自由な社会をつくるという政治的な目的のため
ですから、いわゆる経営学の常識とは違うことを語っています
たとえば、企業は何を目的とするのか
われわれは「利益最大化のため」と言ってきましたが、ドラッカーは絶対にそうではないと否定します
彼が経営者に求めた企業の目的は顧客の創造でした
私はこの顧客の創造というのは経営者も自由人であれの言い換えだと思っています
経営者も人間として生まれたからには自由を行使し、自らイノベーションを起こし、能動的に新製品を顧客に問う
そこから新しい顧客、新しい産業が生まれ、自由な産業社会が形成されると
ただし、イノベーションを起こそうとしても成功する保証はない
失敗したらその責任を取らなければならない
そのために、経営者は利益はとっておかなければならないという発想です
利益が先にあるわけではないのです

ドラッカーは経営者だけでなく、明日の自由な経営者を育成するために、ミドルマネージャー、一般従業員にも自由の行使を求めました
経営者がミドルを管理する場合、上から駆り立てるように強制するのはダメで、あくまで「自己管理による目標管理」によるべきだと言います
ミドルが自分で目的を定め、それを達成するよう自己統治する、そういう管理論ですね
従業員に対する人事管理論についても同様です
従業員にたくさん給料を与えることが大切なのでなく、彼らが自由人として自らプライドを持って自律的に働くことが大事だと言います
そのために、経営者は、従業員一人一人に力を発揮できる最高の舞台を用意するよう求めています
さらにドラッカーは企業における自由の実現のためには、組織についても中央集権はダメで、分権型組織であるべきだと念押しします
ドラッカーのマネジメントは自由の概念の下に一貫しています

自由の概念は大きく分けて二つあります一つは「なんでもできる神の自由」
これはヘーゲル的な自由論です
つまり、外に制約されるものがないという全体の自由であり、「絶対者(神)の自由」「無制約の自由」という発想です
もう一つは「制約のある人間の自由」、カント的な自由です
これは自由意志、意志の自律に基づく「自律的行動の自由」です
ドラッカーの自由もこれです

カントは、人間が他律的行動を取ることを認める一方で、自律的行動を取ることもある、という二元論的人間観に立ちます
他律的行動というのは、原因が自分になく「上司に言われたから」「お金や名声のため」という功利主義的行動です
外から力や刺激を与えられて動くわけですから、機械や動物と同じです
一方、人間は機械や動物と違い、誰に言われるわけでもなく、自ら実行する能力つまり実践理性があることにカントは気づきました
ただし、自律的行動によって失敗したとき、その原因は他ならぬ自分にあります
それゆえ、自由な行為には常に責任が伴う
「自由と責任は対概念」だとカントは考えました
自由とは無制約になんでもできるということではなく、責任を伴うという意味で道徳的な行為でもあるのです
ヨーロッパの伝統である自由と責任論をドラッカーは経営学に持ち込もうとしたと、私は解釈しています
「産業人の未来」に次の言葉があります
「自由とは解放ではない。責任である。(略)自らの行為、および社会の行為について自ら意思決定に責任を負うことである」

•林 公認会計士

われわれは利益が増えた、減ったと一喜一憂していますね
その利益とはなにか
会計においては、一定期間の収益から費用を差し引いたものを言っています
実際にはバーチャルなものだたいうことを、ほとんどの人が知りません
ドラッカーは、「利益に関する最も基本的な事実はそのようなものは存在しないということだからである。存在するのはコストだけである」
大切なのは利益ではなく、儲け、キャッシュのほうなんです
キャッシュフローさえきちんと管理しておけば、会社は潰れない
両者はごっちゃにされていますが、まったく違う
ドラッカーが「企業は十分なキャッシュフローさえあれば利益が出なくとも、長い間なんとかやっていけるということは、古くからの知恵である。しかし逆は真ではない」
ドラッカーが批判する利益というのは過去の短期的利益のこと
過去の実績を輪切りにして収益から費用を差し引いたものです
それに対して、企業活動の条件、企業存続の前提と位置付けられる利益というのは、キャッシュフローのことをいっています
ドラッカーは、利益には
1.事業の判断基準
2.取るべきリスクに対する保険料
3.将来の投資に対する備え
という3つの機能があり、それがなければ企業は存続できないと整理しています

ドラッカーは収益と費用というのは対応しないときっぱり言います
「業績の90%が業績上位の10%からもたらされるのに対しコストの90%は業績を生まない90%から発生する。業績とコストは関係がない」「利益を生み出す活動に意識的に力を入れないならば、コストはなにも生まない活動、単に多忙な活動に向かっていく。資源や業績と同じように活動やコストも拡散する」
コストをいかに成果があがる活動に仕向けるかが重要で、それがマネジメント
「あらゆる活動が短期間だけ強化しても成果は上がらない。しかも、支出の急激な減額は、長年築いてきたものを一日で壊す。売り上げが10%落ちただけで、
トイレの石鹸の補給をストップするなどということは、行ってはならない」


•齋藤孝 明治大学文学部教授
ドラッカーが重視するのは、自分で考えて行動できる判断力を持った人間、価値を生み出す人間です

「過去の分析よりも未来を見る」
ドラッカーはなぜこの企業がダメなのかと原因を探るよりも、まず次の新たな判断をすべきと、説いています

「マネジメントは、明日の経営管理者を準備するという社会的責任を持つ」
ドラッカーはマネージャーの社会的責任についても厳しく、安易な解雇は労働者への裏切りだと説いています