20111017 日経ビジネス

■編集長の視点 山川龍雄
アップルは、これだけの規模の会社にしては、極端に製品の種類が少ない
「何をしてきたかと同じくらい、何をしてこなかったかを誇りたい」
ジョブズ氏が遺した名言の一つです
競合の動きを気にして後追い商品ばかりつくってしまい、製品の種類が膨らみがちな日本企業とは対極にある戦略がそこにあります

コマツといえば、坂根正弘会長が標榜するダントツ経営で知られます
競合に負けてもかまわない部分をはっきりさせ、絶対に負けない部分を定めてダントツの商品を作るという考えは、どこかジョブズ氏の手法とも通じるところがあります
経営者にとって「どこを捨てても構わない」ということは、「どこに注力する」というより、はるかに逡巡を伴います
しかし、今その決断がとわれているような気がします


ジョブズ氏は生前、「死こそ生命がもたらした、この世で唯一最高の発明だ」と語っていた
「死は古きものを取り除き、新しきものに道を譲る」からだと言う
ジョブズ氏は祝辞で次のようにも述べている
「人生は短い。他人のいいなりになるな。常識にとらわれるな。周囲の雑音に惑わされるな。そして最も重要なのは、勇気を持って心の声や直感に耳を傾けることだ。何者になりたいのかは、自分自身が一番よく知っている」


竹内弘高
戦略の最初の種はたぶん右脳、つまり直感や洞察から生まれると思います
でも、それだけでは良い戦略とは言えないんですね
右脳によって作られた仮説を検証するという意味で、まともな左脳が必要なんです
要するに、右脳と左脳を両方とも使えて、しかもつなげられる会社が戦略的には一番強いんです


■日覺昭廣 東レ社長
高コスト構造でも耐えられる製品に関しては、国内でも設備投資しているんですよ
国内の役割は、研究開発を続けてハイエンド製品をつくり、生産技術を確立して現場力を強化すること
ここ3〜4年のことを考えれば、国内工場をすべて閉めて海外に持っていった方が利益率は高くなると思いますよ
だけど、すべてを海外に移して5年後、10年後はどうかといえば、恐らく競争に負けて終わりでしょうね
研究開発拠点である国内の重要性は今後も変わることがありません

問:
円高に強い体質を構築しているとはいえ、円高が一層進行したら厳しいのではないでしょうか
答:
まあ80円前後まででしょうね
東レがどうこうというより、お客様の加工メーカーが成り立たなくなる
まだそこまでの状況ではありませんが、製造業が韓国や台湾に出ていってしまったときに、東レだけが日本にいられるだろうか、と
そうなると、加工メーカーだけでなく、部品や素材といった産業も空洞化してしまう
日本の産業競争力そのものがなくなるということですよ
将来的に、円安に触れたとしても、そのときは既に時遅し
国内に素材産業の基盤がなくなっているということにもなりかねません