20120213日経ビジネス


■加藤修一 ケーズホールディングス会長兼CEO
頑張って数字を作ろうとすると必ず綻びが生じます
無理して結果を出しても、翌年はもっといい数字を作らなければならなくなる
こうして蓄積されてあった無理が、些細なきっかけで一気に噴き出してしまうんです
成長を続けていた企業が突然、大赤字を出すことがあります
たった一年で苦境に陥ったわけじゃない
4年とか5年の間に無理をして成長し、その一方で隠されてきた悪い部分が表に出てしまったです
頑張った結果なんですね
ですから私はその逆、「頑張らない経営」を続けて成長してきました
無理をしない、結果を優先しない経営です。
人間の体に例えるとよく分かります
長生きするためには腹八分目食事をして、適度な運動をして、気楽に過ごすことが重要です
一方で、無理を続けると病気になったり、最悪の場合死に至ったりすることもある
経営も同じです

長い間、経営をやっていると、こうした不況の時こそ、やっておくべきことがあるというのが分かるんです
当社は来期、40〜50の大型店を出店しようと計画しています
不況は事業を拡大させる絶好のタイミングなんです
この考え方を一言で言えば「好況充実、不況拡大」です
景気のいい時は現状を維持し、不況時は売り上げの減少を補うため新規出店して売り場面積を広げます
その要諦は人件費の効率的な運用にあります
家電量販店にとって、最大のコストは売り場を支える従業員の人件費です
「好況充実、不況拡大」を実践すれば、人件費もうまくコントロールできます
不況時は商品が売れないので、社員は手持ち無沙汰になります
そこで新しい店を出して社員に仕事を作る
世間は不況だけど、当社の社員は仕事が潤沢にあるという状態になる
そうすれば人件費がムダになることはありません
不況時は不動産価格などが下がりますから、出店コストを抑えられるメリットもあります

当社は経営方針を変えません
事業を多角化しても、投資先が分散して、結果的に2番手3番手の分野ばかりが並ぶ事態が想定されるからです
一方、お客さんは1番の店しか選びません
品揃え、価格、接客など重視する基準はお客さんによってまちまちでしょう
ただ、なんらかの基準で1番にならないと、お客さんにはきてもらえないんです

社員のレベルを急に上げることはできません
そのノウハウは先輩から後輩へと時間を掛けて伝わっていくものです
だから会社を無理に拡大させるよりも、社員が育つスピードに合わせて緩やかに成長させたほうがいい
僕はまだ会社の規模が小さい頃から社員のレベルが落ちない成長速度を模索してきました
売上高が年間1億円程度の時、目指していた成長率は年25%です
以後、売上高1000億円を達成した際は年15%、5000億円を超えた頃には年10%まで成長の速度を緩めました

僕は海外で流通をやるのは難しいと思っています
SPAであれば独自の商品がありますから、それを求めて海外の人が買いに訪れるかもしれない
でも僕たちが売る家電製品は、基本的にどこの店でも買えます
他社と差別化するのが難しい
それに流通はその国の商慣習や生活パターン、人々の気質を熟知しないとできません
基本的にその国の企業がやるべきだと思いますね
しかも国内にはまだまだ成長の余地がある
当社の2011年3月期の売上高は約7709億円ですが、2015〜2016年には1兆円に到達するでしょう
さらに今後20年ぐらいは成長し続けられると思います

300万人が住む茨城には35店舗ある一方で、1300万人が住む東京には11店舗しかない
東京都内に100店以上は出せるでしょう
山の手線内には出さず、郊外に大型店を出店していく計画です
さらに当社は出店地域を拡大させつつ、既存の小さな店を閉めて大きな店に作り替えています
小さい店はやっぱり魅力にかけます
だから儲かっていても閉める
たとえば盛岡南店は売り場面積を9倍に拡大しました
売り上げは3〜4倍になる一方で、広告宣伝費は3分の1から4分の1になりました
強豪他社の進出を防ぎつつ、利益を出しやすくなります
こうして当社は構造改革しながら、ゆっくりと拡大していく
海外に出るとか、新しい事業を始めるような暇はありません
その代わり、これまで通りやれば何も複雑なことをしなくても成長はできると思っています

僕たちは店舗でお客さんと交渉しながら、商品価格を下げて販売しています
一方、ネット販売では価格を明示しないと売れない
こうした事情もあって、今はネット販売の専門業者が成長しています
ただ、いずれは大手家電量販店がネット販売の主導権を握ることになるでしょうね
「店舗を持たずにローコスト経営ができる方が強い」という見方もありますが、僕は違うと思う
倉庫だけで膨大な品揃えをするのは難しい
店舗ならば可能です
また売れない商品があっても、店舗でさばくことができますね
配送だって速いですよ
ネットでの注文は店舗で受けることにしていて、場合によっては10分後にお届けできる

規模を追うための買収に乗り出そうとは思いません
これまで当社は東北のデンコードーや四国のビッグエスなどを子会社化してきました
それは、それぞれの経営者と考え方があっていたからです
私は規模が大きい会社よりも、意思がきちっと伝わる会社のほうが強いと考えています
強い会社は永続的に成長できる
だから僕はこっちを大事にしていきたいと思っています


■水谷豊 ボストンコンサルティンググループ日本代表
「3つのリストラ」の勧め
1つが「ポートフォリオの見直し」だ
コングロマリット・ディスカウントという言葉がある
これは事業の多角化によって、個々の事業をそれぞれ営むよりも全体の企業価値が下がってしまうことを指す
これまでは「売り上げがある程度上積みできる」という理由で、あまり儲からない事業でも継続する例が多かった
経営者に売り上げが落ちることへの恐怖があることは理解できるが、上を目指すには、例えば「利益率10%」を目安にして、それ以下の事業は切り離すという思い切った決断も必要だ

2つ目のポイントは、「縦のリストラ」だ
人員削減と言えば、各部門の人数を減らす「横のリストラ」が一般的
一方、縦に間延びしてしまった組織を削る努力はあまりなされていない
縦のリストラには、コストカット以外にもメリットがある
縦に組織が多いと、それだけ新しい案件の合意を取り付けるために通るべき関門が増える
この関門が少なくなれば、つまらない報告義務が減り、意思決定のスピードを格段に速めることもできる

最後の3つ目が、「関連会社のリストラ」
関連会社しかやっていないサービスがある
例えば携帯電話会社における基地局保全業務などは、他の選択肢がないため関連会社に頼むより方法がない
これ自体は仕方のないことだが、私の印象では企業本体が一生懸命リストラをしているのに、子会社が意外に削減の努力を怠っているケースが目立つ
では、専門性の強い子会社のリストラをするにはどうすればいいのか
まずはその企業のミッションを明確にすることだ
こうした子会社でよく見られるのが、外部に事業を展開しようとしているケース
しかし大抵の場合1〜2割が外部からの売り上げで、あとはグループ内からのもの
外からは利益が得られず、それを内部からの受注で補填している企業がほとんどだ
そうならば、外売りは今すぐやめさせて、その分コストを徹底的に下げさせるべき
中途半端に外販に手を出すのではなく、親会社のために果たすべき役割を明確にするのだ