■20150831 日経ビジネス

■東芝
今年2月に「工事進行基準」について検査を受けたことが発端となり、全社的な不正会計が明らかになった
工事進行基準とはビルや船舶、発電プラントなど受注から完成・引き渡しまで数年はかかる長期のプロジェクトで用いられる会計処理だ
あらかじめ見積もった工事の原価総額を、工事の進み具合に応じて決算期ごとに計上する
100億で受注した案件が1年間に20%進捗すれば、その年は20億円の売り上げを計上する
原価についても工事の進捗に応じて計上する
工事進行基準は売り上げと費用を決算期ごとに正確に反映できる半面、仮に不正の意図がなくても、企業の「さじ加減」1つで見積もり金額が変わってしまうという問題も潜む
東芝は見積もりのプロセスを都合よく運用し、原価そのものを改ざんした
第三者委員会は東芝が受注時点で赤字が確定しているにもかかわらず、適切に損失を計上しなかったとして「不適切な会計処理」と認定した

たとえば電力システム部門は2012年1月、地方自治体から71億円で受注したものの、あらかじめ工事原価は90億円に達することがわかっていた
工事進行基準では、赤字の19億円は工事の決まった2012年3月期決算に計上しなくてはならない
だが東芝はこの損失を適切に計上せず、売り上げ、利益ともにかさ上げしていた
東芝は同じ手口による原価改ざんを繰り返していた

工期が長いほど「いつかは赤字を埋め合わせできる」という甘えも生まれやすい
「見積もりの修正が遅れるほど、不正を生む圧力も強まっていく」

■塚越寛 伊那食品工業会長
成長は、会社を存続させる上で欠かせない要素の1つではある
しかし、成長は手段であって目的ではない
ここを間違えるから会社がおかしくなる
東芝の利益水増し問題がそうだ
業績や株主を意識しすぎて成長だけを追い求めてしまった
自社が何のために成長するか、その目的を明確にし、それに見合った成長率を実現する
これが会社の存続には大切だ
ただし、どのくらいの成長率が適しているかは会社によって異なる
自社にあった成長率がどのくらいかを決断するのは、トップの重要な役割の1つだ
私は3つの事柄を指標に成長率を決めている
まずは企業規模。売上高が数億円の会社が急激に伸びても、金額としてはたいしたことがないのでひずみが生じにくい
次に、業界の状況。新市場を切り開こうとしている会社なら、市場を確立するまでは急成長したほうがいい
革新的な製品や新薬を開発したばかりの会社などがこれに当たる
最後が時代背景だ。戦後のモノがない時代であれば、十分なモノを市場に提供するために会社の成長が必要だ
だが、現在の日本の市場にはモノが溢れている
多くの場合は、上記の3つのどれを取っても急成長のタイミングではない
にもかかわらず、成長を追う会社は多い
特に価格競争に勝って得た成長はいずれ自分の首を絞めることになる

大事なのは、他社よりも大きく成長することではなく、ずっと成長し続けること
成長には終わりがない
終わりがないのだから、急がずにゆっくりと、どうしたら安定飛行できるかにエネルギーを注ぐべきなのだ