20110425日経ビジネス
■原発交付金は麻薬
柏崎市で原発推進派 東山英機、三富佳一、反対派の武本和幸
四月の県議選では、1位東山18280票、2位三富16644票、3位武本14886票。約1800票差で負けた
「もう二基、原発の増設を」
柏崎市の市会議員、丸山敏彦は、昨年5月から同じく推進派の市議らとともに現行7基に加え2基の増設を東電に呼びかけてきた
「原発のおかげで柏崎市は潤ってきた。だが、ここにきて相対的に財政力の劣る周辺町と合併したこともあって、市の台所事情が厳しくなってきた。活力を失いつつある柏崎を立て直すには、もう2基の増設が必要」と丸山は熱を込める
東電は過去、政官との関係を絶妙のバランス間隔で泳ぎ、原発建設を推進してきた
だが、いくら国が後押ししても、地元自治体の受け入れ原発立地が決まらなければ先へは進まない
そのため原発立地地域へは巨額な資金投入が行われた
電源開発促進対策特別会計法を柱とした電源3法に基づき、原発立地市町村には様々な名目で電源立地地域対策交付金が給付される
柏崎市の場合は柏崎狩羽原発一号機に着工した1978年度から2009年度までで、累計1133億円が投下された
2011年度当初予算(一般会計521億円)の2年分に相当する額だが、それだけではない
さらに大きいのが原発の固定資産税と東電に対する法人住民税、そして使用済み核燃料税(共に市税)という安定税収だ
これらを加えると1995年度には、市の歳入総額の実に34.5%にも達している
地元にとって巨額の財政支援となる
ただ、電源立地地域対策交付金のうち、電源立地促進対策交付金相当とされている部分は、原発着工から運転開始後5年目までで交付が終わる
原発の固定資産税も建設後、時間が経過し減価償却が進むと、減少していく
本誌が入手した資料によれば、1995年度に127億円もあった同原発の固定資産税は2009年度には39億円に低下している
この結果、1995年度には30%に達していた原発関連収入は2008年度には11.2%に急落
2009年度はやや持ち直したが、それでも15%にとどまっている
一方で、収入の増えた時期に公共施設などのハコモノを造ったため財政自体が原発収入に依存する体質になる
市内保育園の保育士の人件費をはじめ、多くの事業が交付金なしには存続不可能な状況になっている
「いったん原発を受け入れ、給付を受け始めたら離れられなくなる」(柏崎市議の矢部忠夫)と言われるのはそのためだ
東電と政官、そして地元を巻き込んだ原発共同体はこうして作られてきた
これに、「今は危険な事態を沈静化させることがなにより大事」としながら、「原子力の利用を進めなければ国が衰える」とする日本原子力技術協会最高顧問の石川迪夫や日本原子力研究開発機構理事長の鈴木篤之ら多数の推進派学者•専門家が加わる
■ローソン 新浪社長
「機能で人間関係同士が結びついた近代的なゲゼルシャフトの時代からもう一度、(地縁や血縁、友情などで結びついた共同体である)ゲマインシャフトの時代に戻るんじゃないかという思いを強くします」
かつてどの町にもあった食品やタバコや酒類を扱う個人商品はゲマインシャフト的な存在だった
しかし1970年代以降、効率性の競争に敗れ、コンビニに駆逐されていった
効率を重視したチェーンストア•オペレーションで支えられるコンビニというビジネスモデルはゲゼルシャフト的と言っていい
かつてはローソンも憧れ、追従し、追い越そうと夢想したセブンイレブン
しかし新浪社長が今見るのは、セブンが磨き上げてきた機能美とはまるで別の未来図だ
画一的な店舗は個性を取り戻し、個性に返る
その時、ローソンというチェーンとして店舗同士が結びつく動機がゲマインシャフトというわけだ
「今この災厄を前に企業は社会的な役割を果たせるかどうか試されていると思います。コミュニティにきちんと根ざしていない企業は滅びていくでしょう。町があって、企業が生きていける。だから町が困っていれば、返してあげなくちゃいけない。
災害時に動くのは行政だけではダメなんです。彼らに継続的にモノやサービスを供給するノウハウはない。そこは民間の力でやるべきです。行政と連携しながら、企業が、自分たちの本業を通じてコミュニティに貢献していく。僕はこれは新しい公共のあり方じゃないかと思います」
■ノリエル•ルービニ
中国経済は今、過熱状態にあるが、いずれ現在の過剰投資が国内的にも国際的にもデフレを招くモノであることが明らかになるだろう
恐らく2013年以降、固定資本投資を増やすことが不可能になれば、急激な景気後退が始まる
新5カ年計画は前回のモノと同様にGDPに占める消費の割合を増やすことを目標にうたっている
ただ政府にとって最も抵抗を受けにくく、それゆえに取りやすい路線は現状維持だろう
計画の詳細を支える手段として、今後も公共住宅投資を含む投資に依存しようとする姿勢が浮かび上がる
通貨切り上げを早めたり、財政支出を大幅に家計に振り向けたり、国有企業への課税強化もしくは民営化を進めたり、戸籍管理制度を緩和したり、金融システムの抑圧を緩和したりするつもりはなさそうだ
過去20〜30年というもの中国は輸出主導型の工業化と通貨安をテコに成長を続けてきた
その結果、企業と家計の貯蓄率は高まり、純輸出と固定資本投資(社会資本、不動産、輸入品と競合する産業や輸出産業の設備への投資)に依存することになった
2008年から2009年にかけて純輸出がGDPの11%から5%に激減すると、中国の指導部は固定資本投資をGDPの42%からさらに47%に引き上げることで対応した
中国は2009年に日本やドイツ及び他のアジア新興国が経験したような深刻な不況に陥らなかったが、理由はひとえに固定資本投資が爆発的に増えたためである
2010〜2011には固定資本投資がGDPに占める占める割合はさらに高まり、50%近くに達する
言うまでも無く、問題はGDPの50%を新たな資本ストックへの再投資に回しても、膨大な過剰生産能力や不良債権が生じないほど生産性の高い国はない、ということにある
中国は物的資本、社会資本、不動産の各面で過剰投資に陥っている
小綺麗だが閑散とした空港、超高速鉄道(その整備によって計画されている空港45ヶ所を建設する必要がなくなる)、無用な高速道路、中央政府や地方政府の何千という巨大な新庁舎、各地のゴーストタウン、国際アルミ相場の暴落を防ぐために竣工しても稼働されない真新しいアルミ製錬所、こうしたものをみれば、訪問者の目にも過剰投資は明らかだ
過剰投資は商業用不動産や高級住宅でも起こっており、自動車生産能力は最近急激に伸びた販売量すら上回る
さらに鉄鋼、セメントをはじめとする製造業でも過剰生産能力が一段と増えている
中国の成長が極めて資源消費型なものであることから、短期的には旺盛な投資によってインフレが加速するだろう
だが、製造業や不動産業界を筆頭に過剰生産能力はいずれ深刻なデフレ圧力となるとこは間違えない
最終的に中国は2013年以降に経済のハードランディングを経験することになるだろう
1990年代別の東アジアの例をはじめ、過去に過剰投資が起こった国々では例外無く、金融危機もしくは長引く低成長、あるいはその両方が待ち受けていた
こうした末路を避けるためには中国は貯蓄率を引き下げ、固定資本投資を減らし、GDPに占める純輸出の割合を下げるとともに消費の割合を高める必要がある
問題は、中国人の貯蓄過多•消費過少の背景には、構造的な原因があるということだ
過剰投資が起こりやすい状況を変えるための改革には20年は掛かるだろう
これまで高貯蓄率の原因とされてきた要因(社会的なセーフティネットの欠如、公共サービスの不足、人口の高齢化、消費者向け金融サービスの未発達)は、問題の一部でしかない
中国では、GDPのうち家計部門に向かう割合が50%以下であり、その結果消費にまわる分が極めて少ないことになる
中国の様々な政策は、政治的に弱い立場にある家計部門から政治力の強い企業部門へと膨大な所得移転させてきた
例えば通貨安は輸入品の価格を引き上げ、家計の購買力を低下させることになる
その結果、輸入品と競合する国有企業は保護され、輸出企業の利益は押し上げられる
預金金利が低く、企業や不動産開発業者への貸出金利が低いことは、家計部門の膨大な貯蓄の実質的なリターンと国有企業の実質借り入れコストがともにマイナスであることを意味する
これは過剰投資への強力な動機づけとなるほか、家計から国有企業に膨大な所得が移転していることを示唆する
家計所得の伸び悩みを解消するには、人民元レートの切り上げを加速し、金利を自由化し、賃金上昇率を大幅に引き上げる必要がある
それ以上に重要なのは、
国有企業を民営化してその利益が家計部門の所得になるようにするか、国有企業への課税を大幅に強化し、その分の税収を家計に移転することだ
ただ、家計部門に流れる所得の割合を引き上げることは、多数の国有企業や輸出依存型企業や地方政府を財政破綻に追い込む可能性がある
いずれも政治勢力として強大な力を持っていることから中国は現行の5カ年計画でさらに投資を増やそうとしている
投資主導型の成長を続ければ、製造業、不動産、社会資本の明らかな過剰がさらに悪化し、追加的な固定資本投資が不可能となった後の景気後退は一段と厳しいものになるだろう
2012年から2013年にかけての政治指導部の交代まで政策当局は高成長を持続できるかもしれないが、今の状況から見る限り、そのコストは極めて高くつきそうだ
■内永ゆか子 ベルリッツ コーポレーション会長兼CEO
今回の震災を通して改めて組織のリーダーに必要な資質が分かった
それは未曾有の事態に直面したとき、いかに情報を分析し、決断し、実行するかという能力だ
この指揮力にはいくつかの側面がある
まずは即断即決できる力
事態が急を要する局面では、直ちに方針を決める力が重要になる
特に想定を超える大震災が起こると、様々な情報が飛び交う
何が本当で何が偽りなのか
いくら即断即決しても、誤った情報を基に結論を導いてはいけない
正しい情報を集約し、判断できる組織力を日頃から作ることが大切だ
もう一つ重要なのが、混乱した状況の中でも落ち着いて冷静に事態を見抜く力だろう
放射能汚染を懸念する各国大使館が日本に滞在する自国民に向け日本からの退避勧告を出したときだった
私はしばらく考え、大使館勧告に従い外国人教師は帰国すべきだと結論を出した
この決断には多くの社員が反対したが、恐怖で怯える教師を引き留めても良い影響は出ない
また行かないでという懇願を振り切る形で帰国すれば、事態が落ち着いても教師は戻ってきづらい
それでも六割の外国人教師が日本に留まった
問題はその後の教室運営だ
教師が一斉に帰国すると多くの社員が動揺する中、私が指示したのは残った外国人教師の人数とお客様の予約件数を数字で出すことだった
するとお客様のキャンセルも増えていたので、残った外国人教師で十分に対応できた
組織のリーダーとして大切なのは、誰もが感情的になっているときこそ、一歩引いて回りを見渡し、幅広い角度から物事を分析することだろう
数値化できるものは数字を示す
数値化できないことも客観的に説明する
冷静に状況を伝えれば、組織は自ずと落ち着きを取り戻す
有事には通常業務が疎かになりがちだ
我々は日本だけでなく世界70ヶ国に事業所がある
だが被災したのは日本だけで、海外に影響はない
通常業務は粛々と続けるべきだ
有事の際こそ、日常業務はしっかりと続けなければいけない
これらは、企業のリーダーはもちろんのこと、国家のリーダーにも当然求められる資質だ
現在は、誰もが地震被害や原発事故にばかり目を向けている
こうした状況でも日本の再建を少し引いた目で、対局的に立って判断できるリーダーが求められる
TPPへの参加や社会保障制度の改革など、復興に直接影響のない業務まで止めることは、国家の再建を遅らせることになる
今こそ大局に立って周囲を見渡し、冷静な判断力を下して欲しい
■原発交付金は麻薬
柏崎市で原発推進派 東山英機、三富佳一、反対派の武本和幸
四月の県議選では、1位東山18280票、2位三富16644票、3位武本14886票。約1800票差で負けた
「もう二基、原発の増設を」
柏崎市の市会議員、丸山敏彦は、昨年5月から同じく推進派の市議らとともに現行7基に加え2基の増設を東電に呼びかけてきた
「原発のおかげで柏崎市は潤ってきた。だが、ここにきて相対的に財政力の劣る周辺町と合併したこともあって、市の台所事情が厳しくなってきた。活力を失いつつある柏崎を立て直すには、もう2基の増設が必要」と丸山は熱を込める
東電は過去、政官との関係を絶妙のバランス間隔で泳ぎ、原発建設を推進してきた
だが、いくら国が後押ししても、地元自治体の受け入れ原発立地が決まらなければ先へは進まない
そのため原発立地地域へは巨額な資金投入が行われた
電源開発促進対策特別会計法を柱とした電源3法に基づき、原発立地市町村には様々な名目で電源立地地域対策交付金が給付される
柏崎市の場合は柏崎狩羽原発一号機に着工した1978年度から2009年度までで、累計1133億円が投下された
2011年度当初予算(一般会計521億円)の2年分に相当する額だが、それだけではない
さらに大きいのが原発の固定資産税と東電に対する法人住民税、そして使用済み核燃料税(共に市税)という安定税収だ
これらを加えると1995年度には、市の歳入総額の実に34.5%にも達している
地元にとって巨額の財政支援となる
ただ、電源立地地域対策交付金のうち、電源立地促進対策交付金相当とされている部分は、原発着工から運転開始後5年目までで交付が終わる
原発の固定資産税も建設後、時間が経過し減価償却が進むと、減少していく
本誌が入手した資料によれば、1995年度に127億円もあった同原発の固定資産税は2009年度には39億円に低下している
この結果、1995年度には30%に達していた原発関連収入は2008年度には11.2%に急落
2009年度はやや持ち直したが、それでも15%にとどまっている
一方で、収入の増えた時期に公共施設などのハコモノを造ったため財政自体が原発収入に依存する体質になる
市内保育園の保育士の人件費をはじめ、多くの事業が交付金なしには存続不可能な状況になっている
「いったん原発を受け入れ、給付を受け始めたら離れられなくなる」(柏崎市議の矢部忠夫)と言われるのはそのためだ
東電と政官、そして地元を巻き込んだ原発共同体はこうして作られてきた
これに、「今は危険な事態を沈静化させることがなにより大事」としながら、「原子力の利用を進めなければ国が衰える」とする日本原子力技術協会最高顧問の石川迪夫や日本原子力研究開発機構理事長の鈴木篤之ら多数の推進派学者•専門家が加わる
■ローソン 新浪社長
「機能で人間関係同士が結びついた近代的なゲゼルシャフトの時代からもう一度、(地縁や血縁、友情などで結びついた共同体である)ゲマインシャフトの時代に戻るんじゃないかという思いを強くします」
かつてどの町にもあった食品やタバコや酒類を扱う個人商品はゲマインシャフト的な存在だった
しかし1970年代以降、効率性の競争に敗れ、コンビニに駆逐されていった
効率を重視したチェーンストア•オペレーションで支えられるコンビニというビジネスモデルはゲゼルシャフト的と言っていい
かつてはローソンも憧れ、追従し、追い越そうと夢想したセブンイレブン
しかし新浪社長が今見るのは、セブンが磨き上げてきた機能美とはまるで別の未来図だ
画一的な店舗は個性を取り戻し、個性に返る
その時、ローソンというチェーンとして店舗同士が結びつく動機がゲマインシャフトというわけだ
「今この災厄を前に企業は社会的な役割を果たせるかどうか試されていると思います。コミュニティにきちんと根ざしていない企業は滅びていくでしょう。町があって、企業が生きていける。だから町が困っていれば、返してあげなくちゃいけない。
災害時に動くのは行政だけではダメなんです。彼らに継続的にモノやサービスを供給するノウハウはない。そこは民間の力でやるべきです。行政と連携しながら、企業が、自分たちの本業を通じてコミュニティに貢献していく。僕はこれは新しい公共のあり方じゃないかと思います」
■ノリエル•ルービニ
中国経済は今、過熱状態にあるが、いずれ現在の過剰投資が国内的にも国際的にもデフレを招くモノであることが明らかになるだろう
恐らく2013年以降、固定資本投資を増やすことが不可能になれば、急激な景気後退が始まる
新5カ年計画は前回のモノと同様にGDPに占める消費の割合を増やすことを目標にうたっている
ただ政府にとって最も抵抗を受けにくく、それゆえに取りやすい路線は現状維持だろう
計画の詳細を支える手段として、今後も公共住宅投資を含む投資に依存しようとする姿勢が浮かび上がる
通貨切り上げを早めたり、財政支出を大幅に家計に振り向けたり、国有企業への課税強化もしくは民営化を進めたり、戸籍管理制度を緩和したり、金融システムの抑圧を緩和したりするつもりはなさそうだ
過去20〜30年というもの中国は輸出主導型の工業化と通貨安をテコに成長を続けてきた
その結果、企業と家計の貯蓄率は高まり、純輸出と固定資本投資(社会資本、不動産、輸入品と競合する産業や輸出産業の設備への投資)に依存することになった
2008年から2009年にかけて純輸出がGDPの11%から5%に激減すると、中国の指導部は固定資本投資をGDPの42%からさらに47%に引き上げることで対応した
中国は2009年に日本やドイツ及び他のアジア新興国が経験したような深刻な不況に陥らなかったが、理由はひとえに固定資本投資が爆発的に増えたためである
2010〜2011には固定資本投資がGDPに占める占める割合はさらに高まり、50%近くに達する
言うまでも無く、問題はGDPの50%を新たな資本ストックへの再投資に回しても、膨大な過剰生産能力や不良債権が生じないほど生産性の高い国はない、ということにある
中国は物的資本、社会資本、不動産の各面で過剰投資に陥っている
小綺麗だが閑散とした空港、超高速鉄道(その整備によって計画されている空港45ヶ所を建設する必要がなくなる)、無用な高速道路、中央政府や地方政府の何千という巨大な新庁舎、各地のゴーストタウン、国際アルミ相場の暴落を防ぐために竣工しても稼働されない真新しいアルミ製錬所、こうしたものをみれば、訪問者の目にも過剰投資は明らかだ
過剰投資は商業用不動産や高級住宅でも起こっており、自動車生産能力は最近急激に伸びた販売量すら上回る
さらに鉄鋼、セメントをはじめとする製造業でも過剰生産能力が一段と増えている
中国の成長が極めて資源消費型なものであることから、短期的には旺盛な投資によってインフレが加速するだろう
だが、製造業や不動産業界を筆頭に過剰生産能力はいずれ深刻なデフレ圧力となるとこは間違えない
最終的に中国は2013年以降に経済のハードランディングを経験することになるだろう
1990年代別の東アジアの例をはじめ、過去に過剰投資が起こった国々では例外無く、金融危機もしくは長引く低成長、あるいはその両方が待ち受けていた
こうした末路を避けるためには中国は貯蓄率を引き下げ、固定資本投資を減らし、GDPに占める純輸出の割合を下げるとともに消費の割合を高める必要がある
問題は、中国人の貯蓄過多•消費過少の背景には、構造的な原因があるということだ
過剰投資が起こりやすい状況を変えるための改革には20年は掛かるだろう
これまで高貯蓄率の原因とされてきた要因(社会的なセーフティネットの欠如、公共サービスの不足、人口の高齢化、消費者向け金融サービスの未発達)は、問題の一部でしかない
中国では、GDPのうち家計部門に向かう割合が50%以下であり、その結果消費にまわる分が極めて少ないことになる
中国の様々な政策は、政治的に弱い立場にある家計部門から政治力の強い企業部門へと膨大な所得移転させてきた
例えば通貨安は輸入品の価格を引き上げ、家計の購買力を低下させることになる
その結果、輸入品と競合する国有企業は保護され、輸出企業の利益は押し上げられる
預金金利が低く、企業や不動産開発業者への貸出金利が低いことは、家計部門の膨大な貯蓄の実質的なリターンと国有企業の実質借り入れコストがともにマイナスであることを意味する
これは過剰投資への強力な動機づけとなるほか、家計から国有企業に膨大な所得が移転していることを示唆する
家計所得の伸び悩みを解消するには、人民元レートの切り上げを加速し、金利を自由化し、賃金上昇率を大幅に引き上げる必要がある
それ以上に重要なのは、
国有企業を民営化してその利益が家計部門の所得になるようにするか、国有企業への課税を大幅に強化し、その分の税収を家計に移転することだ
ただ、家計部門に流れる所得の割合を引き上げることは、多数の国有企業や輸出依存型企業や地方政府を財政破綻に追い込む可能性がある
いずれも政治勢力として強大な力を持っていることから中国は現行の5カ年計画でさらに投資を増やそうとしている
投資主導型の成長を続ければ、製造業、不動産、社会資本の明らかな過剰がさらに悪化し、追加的な固定資本投資が不可能となった後の景気後退は一段と厳しいものになるだろう
2012年から2013年にかけての政治指導部の交代まで政策当局は高成長を持続できるかもしれないが、今の状況から見る限り、そのコストは極めて高くつきそうだ
■内永ゆか子 ベルリッツ コーポレーション会長兼CEO
今回の震災を通して改めて組織のリーダーに必要な資質が分かった
それは未曾有の事態に直面したとき、いかに情報を分析し、決断し、実行するかという能力だ
この指揮力にはいくつかの側面がある
まずは即断即決できる力
事態が急を要する局面では、直ちに方針を決める力が重要になる
特に想定を超える大震災が起こると、様々な情報が飛び交う
何が本当で何が偽りなのか
いくら即断即決しても、誤った情報を基に結論を導いてはいけない
正しい情報を集約し、判断できる組織力を日頃から作ることが大切だ
もう一つ重要なのが、混乱した状況の中でも落ち着いて冷静に事態を見抜く力だろう
放射能汚染を懸念する各国大使館が日本に滞在する自国民に向け日本からの退避勧告を出したときだった
私はしばらく考え、大使館勧告に従い外国人教師は帰国すべきだと結論を出した
この決断には多くの社員が反対したが、恐怖で怯える教師を引き留めても良い影響は出ない
また行かないでという懇願を振り切る形で帰国すれば、事態が落ち着いても教師は戻ってきづらい
それでも六割の外国人教師が日本に留まった
問題はその後の教室運営だ
教師が一斉に帰国すると多くの社員が動揺する中、私が指示したのは残った外国人教師の人数とお客様の予約件数を数字で出すことだった
するとお客様のキャンセルも増えていたので、残った外国人教師で十分に対応できた
組織のリーダーとして大切なのは、誰もが感情的になっているときこそ、一歩引いて回りを見渡し、幅広い角度から物事を分析することだろう
数値化できるものは数字を示す
数値化できないことも客観的に説明する
冷静に状況を伝えれば、組織は自ずと落ち着きを取り戻す
有事には通常業務が疎かになりがちだ
我々は日本だけでなく世界70ヶ国に事業所がある
だが被災したのは日本だけで、海外に影響はない
通常業務は粛々と続けるべきだ
有事の際こそ、日常業務はしっかりと続けなければいけない
これらは、企業のリーダーはもちろんのこと、国家のリーダーにも当然求められる資質だ
現在は、誰もが地震被害や原発事故にばかり目を向けている
こうした状況でも日本の再建を少し引いた目で、対局的に立って判断できるリーダーが求められる
TPPへの参加や社会保障制度の改革など、復興に直接影響のない業務まで止めることは、国家の再建を遅らせることになる
今こそ大局に立って周囲を見渡し、冷静な判断力を下して欲しい