20110530日経ビジネス
■永守重信 日本電産社長
今期については事務方の出してきた予想は楽観的だったのだけれど、僕は売上で550億円ぐらい減るかもしれないと思った
震災の影響が大きいと言うと顧客から外されるかもしれないと思うから、みんなが「問題がない」「問題がない」と言うような時は、あとになって意外に影響が出てくるものだ
それで変えた
あり得るリスクをギリギリまで見ていかないと何かあったときに想定外ということになるわけで、それではダメだと
これからの世界経済は「先進国vs新興国」という構図になるのだろう
例えば、日本市場は縮小が避けられないが、新興国の市場は当面成長し続ける
だから結局、日本企業も韓国企業がやったようにそとへ出ていくしかない
新興国で勝つにはまずは母国でもっと企業が結びつかないとダメだろう
M&Aで統合しないとダメだ
戦国大名が天下を取ろうと京都を目指す時に、国元では周辺の大名を征服したり、同盟を結び後顧の憂いをなくしたのと同じだ
1997年のアジア危機の際、韓国はIMFの管理下に置かれた
これが契機となり、企業統合が進み強くなった
だが、日本ではなかなか企業統合が起きない
例えば、何も日立製作所と三菱電機、東芝の全部がくっつけと言っているわけではない
特定事業を対象にした統合でもいい
そうしなければ、もう世界市場では勝てなくなっている
世界市場の中で新興国市場が中心的位置を占めるようになった今、競争の構図は従来とまったく変わった
多くの日本企業は、中国など新興国の企業がどんどん安いものを出してくる時、「我々は高級品でいく」と考える
大企業ほどすぐにそう言う
僕が日本電産を創業した73年にアメリカにはRCAという巨大電機メーカーがあったけど、十数年でつぶれた
誰にやられたかといったら日本の電機メーカーだ
今で言えば、韓国や台湾、中国のメーカーにやられたようなものと言える
どうしてやられたかというと、高級品に逃げて低価格品はOEMにしたわけだ
今、日本の会社が中国の会社や台湾の会社にパソコンや他のものを作らせているが、それに似ている
高価格品市場だけで生きていけるというのは、技術過信に基づいた発想でとても危険だ
技術だけで売れるなら、新興国市場はこれまでみな先進国の製品で埋めつくされていたはずだが、そうはなっていない
日本の企業間の取引関係も変わるだろう
昔は、例えばトップ5ぐらいにいれば、シェアが低く利益は少なくても赤字にはならなかった
だが、今やグローバル化で競争が激化し、買収や合併が起きたり、破綻したりしてサプライヤーの数が減っている
世界ではこうした淘汰がどんどん進んだ
しかし、日本では特に自動車産業で、依然として系列関係が残りかなりの数のサプライヤーが残っている
電機では系列は崩れたが、企業数はまだ多い
震災からの復興期過程では、安くていいものを早く作るところから部品や部材を調達するように変わるだろう
これは不可避の潮流だ
自由競争に完全に身を置かないと、日本企業は世界の中でもう勝てない
サプライヤーが減るとサプライチェーンが脆弱になると危惧するかもしれない
だが、これは生産拠点の分散で対処可能だ
日本電産は、世界シェア80%を握るハードディスク用のスピンドルモーターを中国、フィリピン、タイの3ヶ所で作っている
1工場で生産する方が効率が良い
しかし、世界シェア80%もあると自然災害だけではなく政変、火災などにも備えなければならない
1ヶ所で作っていて被災したら、それこそ世界のパソコン生産が止まってしまう
在庫を持たないとかジャストインタイムとか言い続けてきたが、そういう効率の追求だけではダメだということが、今回の震災でわかったのではないか
日本が強みにしてきたモノ作りの仕組みは変わらないといけない
系列取引が残っているのは、自動車産業ぐらい
電機はもう崩れている
安くていいものを世界から買うというふうになっていくのではないか
(問:サプライヤー側は高シェア製品を持っていても、利益が取りにくくなっている)
一つ言いたいのは、過去の実績にこだわり過ぎたらダメということ
例えば、うちはハードディスク用の精密モーターで成長してきた
だが、ここにきてパソコン市場は、(ハードディスクを使わない)タブレットパソコンが伸びてきた
こうした状況をみるにつけて、やはりビジネスのポートフォリオというものは、時代に応じて変えなければならないと思う
過去10年でも、フィルムカメラがデジカメに変わり、ブラウン管テレビが薄型テレビに変わり、固定電話は携帯電話、さらにスマートフォンに移ってきた
目指す機能は同じでもモノが違う
ビジネスに永遠という言葉はないのに、経営者にはなかなかそれが見えない
当たり前だが、そんな変化を見極めるのが、競争を生き抜く上で最も大事なことだ
市場の変化が誰にも見えるようになってから対応しようとしても技術はすぐに開発できない
M&Aはそんなとき時間を買う役割も果たす
だから、自社で事業を育てていくことと、M&Aで時間を買うことは今後成長の両輪になるはずだ
先が見えない時代だから、経営力が問われる
社長交代の挨拶でしばしば「前社長の経営方針を踏襲する」という声が聞かれるが、踏襲するのではもうアウトだ
だから企業は経営者をどんどんスカウトしないといけないし、優秀な人を引っ張らないと変化についていけなくなる
そのためには、コストを惜しんではダメだ
我が社は昨年、アメリカの電機大手エマソン•エレクトリックのモーター事業を買収したが、この会社の社長の給料は僕より高い
その上で長くやらせるべきだ
大企業にありがちな2期4年といったことではダメだ
アメリカ企業がときどきなぜとんでもない高値のM&Aを行うのか
彼らはキャッシュフローで考えている
(多額の設備投資で減価償却費などが大きくなり)営業赤字になっていても、営業フローが大きければいい
そう考える訳だ
それなのに日本企業はまだ買収した企業の営業利益が赤字だと、何で買ったんだと怒られる
そんなこと一つもわかってない
日本企業はもう一度、世界で血みどろのシェア争いをしなければいけない
繰り返しになるが、低価格品は新興国企業に任せるなどと言っていたら、やがてやられる
戦い抜くというスピリッツがないとダメなんだ
厳しい競争の時代を勝ち抜くには、韓国がやってきた税制や産業政策のような国を挙げた企業支援の政策が必要かもしれないがもう待ってはいられない
■柳井正 ファーストリテイリング社長
近年の日本の状況は、僕が故郷で直面した苦境と重なります
僕の故郷は山口県の宇部市にあります
炭鉱の街として発展しましたが、エネルギー革命で石炭から石油に燃料の主役が移ると急速に衰退しました
僕の実家は宇部の商店街で洋服店を営んでいました
炭鉱の衰退に追い討ちをかけるようにチェーンストアが進出してきて、商店街は急速にシェアを奪われて活気を失っていった
僕は宇部の外に出て行ったからうまくいったけど、そのまま商店街にとどまっていたら、潰れていたと思う
今の日本の状況と同じです
空洞化、空洞化というけれど、日本だけでは今の収入も維持できないんですよ
日本を食べさせていくのは、グローバル化した企業とグローバル化した日本人なんです
日本を支えていくには海外旅行展開しかありません
この想いは震災を経てますます高くなりました
短期間にグローバル化を果たしたアップルやGoogleのように五年、十年といったスパンで一気阿成にグローバル化を果たしたいと思っています
今までは欧米でナンバーワンになることが世界一に、なる近道でした
しかし、これからはアジアでナンバーワンになることが世界一になるかもしれない
■永守重信 日本電産社長
今期については事務方の出してきた予想は楽観的だったのだけれど、僕は売上で550億円ぐらい減るかもしれないと思った
震災の影響が大きいと言うと顧客から外されるかもしれないと思うから、みんなが「問題がない」「問題がない」と言うような時は、あとになって意外に影響が出てくるものだ
それで変えた
あり得るリスクをギリギリまで見ていかないと何かあったときに想定外ということになるわけで、それではダメだと
これからの世界経済は「先進国vs新興国」という構図になるのだろう
例えば、日本市場は縮小が避けられないが、新興国の市場は当面成長し続ける
だから結局、日本企業も韓国企業がやったようにそとへ出ていくしかない
新興国で勝つにはまずは母国でもっと企業が結びつかないとダメだろう
M&Aで統合しないとダメだ
戦国大名が天下を取ろうと京都を目指す時に、国元では周辺の大名を征服したり、同盟を結び後顧の憂いをなくしたのと同じだ
1997年のアジア危機の際、韓国はIMFの管理下に置かれた
これが契機となり、企業統合が進み強くなった
だが、日本ではなかなか企業統合が起きない
例えば、何も日立製作所と三菱電機、東芝の全部がくっつけと言っているわけではない
特定事業を対象にした統合でもいい
そうしなければ、もう世界市場では勝てなくなっている
世界市場の中で新興国市場が中心的位置を占めるようになった今、競争の構図は従来とまったく変わった
多くの日本企業は、中国など新興国の企業がどんどん安いものを出してくる時、「我々は高級品でいく」と考える
大企業ほどすぐにそう言う
僕が日本電産を創業した73年にアメリカにはRCAという巨大電機メーカーがあったけど、十数年でつぶれた
誰にやられたかといったら日本の電機メーカーだ
今で言えば、韓国や台湾、中国のメーカーにやられたようなものと言える
どうしてやられたかというと、高級品に逃げて低価格品はOEMにしたわけだ
今、日本の会社が中国の会社や台湾の会社にパソコンや他のものを作らせているが、それに似ている
高価格品市場だけで生きていけるというのは、技術過信に基づいた発想でとても危険だ
技術だけで売れるなら、新興国市場はこれまでみな先進国の製品で埋めつくされていたはずだが、そうはなっていない
日本の企業間の取引関係も変わるだろう
昔は、例えばトップ5ぐらいにいれば、シェアが低く利益は少なくても赤字にはならなかった
だが、今やグローバル化で競争が激化し、買収や合併が起きたり、破綻したりしてサプライヤーの数が減っている
世界ではこうした淘汰がどんどん進んだ
しかし、日本では特に自動車産業で、依然として系列関係が残りかなりの数のサプライヤーが残っている
電機では系列は崩れたが、企業数はまだ多い
震災からの復興期過程では、安くていいものを早く作るところから部品や部材を調達するように変わるだろう
これは不可避の潮流だ
自由競争に完全に身を置かないと、日本企業は世界の中でもう勝てない
サプライヤーが減るとサプライチェーンが脆弱になると危惧するかもしれない
だが、これは生産拠点の分散で対処可能だ
日本電産は、世界シェア80%を握るハードディスク用のスピンドルモーターを中国、フィリピン、タイの3ヶ所で作っている
1工場で生産する方が効率が良い
しかし、世界シェア80%もあると自然災害だけではなく政変、火災などにも備えなければならない
1ヶ所で作っていて被災したら、それこそ世界のパソコン生産が止まってしまう
在庫を持たないとかジャストインタイムとか言い続けてきたが、そういう効率の追求だけではダメだということが、今回の震災でわかったのではないか
日本が強みにしてきたモノ作りの仕組みは変わらないといけない
系列取引が残っているのは、自動車産業ぐらい
電機はもう崩れている
安くていいものを世界から買うというふうになっていくのではないか
(問:サプライヤー側は高シェア製品を持っていても、利益が取りにくくなっている)
一つ言いたいのは、過去の実績にこだわり過ぎたらダメということ
例えば、うちはハードディスク用の精密モーターで成長してきた
だが、ここにきてパソコン市場は、(ハードディスクを使わない)タブレットパソコンが伸びてきた
こうした状況をみるにつけて、やはりビジネスのポートフォリオというものは、時代に応じて変えなければならないと思う
過去10年でも、フィルムカメラがデジカメに変わり、ブラウン管テレビが薄型テレビに変わり、固定電話は携帯電話、さらにスマートフォンに移ってきた
目指す機能は同じでもモノが違う
ビジネスに永遠という言葉はないのに、経営者にはなかなかそれが見えない
当たり前だが、そんな変化を見極めるのが、競争を生き抜く上で最も大事なことだ
市場の変化が誰にも見えるようになってから対応しようとしても技術はすぐに開発できない
M&Aはそんなとき時間を買う役割も果たす
だから、自社で事業を育てていくことと、M&Aで時間を買うことは今後成長の両輪になるはずだ
先が見えない時代だから、経営力が問われる
社長交代の挨拶でしばしば「前社長の経営方針を踏襲する」という声が聞かれるが、踏襲するのではもうアウトだ
だから企業は経営者をどんどんスカウトしないといけないし、優秀な人を引っ張らないと変化についていけなくなる
そのためには、コストを惜しんではダメだ
我が社は昨年、アメリカの電機大手エマソン•エレクトリックのモーター事業を買収したが、この会社の社長の給料は僕より高い
その上で長くやらせるべきだ
大企業にありがちな2期4年といったことではダメだ
アメリカ企業がときどきなぜとんでもない高値のM&Aを行うのか
彼らはキャッシュフローで考えている
(多額の設備投資で減価償却費などが大きくなり)営業赤字になっていても、営業フローが大きければいい
そう考える訳だ
それなのに日本企業はまだ買収した企業の営業利益が赤字だと、何で買ったんだと怒られる
そんなこと一つもわかってない
日本企業はもう一度、世界で血みどろのシェア争いをしなければいけない
繰り返しになるが、低価格品は新興国企業に任せるなどと言っていたら、やがてやられる
戦い抜くというスピリッツがないとダメなんだ
厳しい競争の時代を勝ち抜くには、韓国がやってきた税制や産業政策のような国を挙げた企業支援の政策が必要かもしれないがもう待ってはいられない
■柳井正 ファーストリテイリング社長
近年の日本の状況は、僕が故郷で直面した苦境と重なります
僕の故郷は山口県の宇部市にあります
炭鉱の街として発展しましたが、エネルギー革命で石炭から石油に燃料の主役が移ると急速に衰退しました
僕の実家は宇部の商店街で洋服店を営んでいました
炭鉱の衰退に追い討ちをかけるようにチェーンストアが進出してきて、商店街は急速にシェアを奪われて活気を失っていった
僕は宇部の外に出て行ったからうまくいったけど、そのまま商店街にとどまっていたら、潰れていたと思う
今の日本の状況と同じです
空洞化、空洞化というけれど、日本だけでは今の収入も維持できないんですよ
日本を食べさせていくのは、グローバル化した企業とグローバル化した日本人なんです
日本を支えていくには海外旅行展開しかありません
この想いは震災を経てますます高くなりました
短期間にグローバル化を果たしたアップルやGoogleのように五年、十年といったスパンで一気阿成にグローバル化を果たしたいと思っています
今までは欧米でナンバーワンになることが世界一に、なる近道でした
しかし、これからはアジアでナンバーワンになることが世界一になるかもしれない